沖端地区まちなみ・街路整備(福岡県柳川市)
Okinohata District Townscape and Street Improvement in Yanagawa City












柳川市は水郷として知られ、市内を巡る掘割を「どんこ船」に揺られながら進む「川下り」は歴史ある舟遊びとして観光の目玉となっている。特に西鉄柳川駅周辺の下百町乗下船場から沖端地区までの川下りは多くの観光客で賑わう主要なコースとなっている。
沖端地区は柳川市の西側に位置し、船溜まりを中心に形成された漁村集落であり、川下り途中の掘割沿いには、市木に制定されている柳(やなぎ)が緑豊かな水辺の景観を作り出している。同地区には、歴史的構造物(主な観光資源)として「沖端水天宮」や「北原白秋生家」「御花」がある。「沖端水天宮」では、夏場に増加する水難事故の防止を祈願して毎年5 月上旬に「沖端水天宮祭」が催され、11 月には北原白秋を偲び、柳川市内の掘割で水上パレードを行う「白秋生誕祭」、節句の時期には、柳川市の伝統行事「柳川ひな祭りさげもんめぐり」も開催される。また掘割沿いには古くから階段状の「汲水場」が多く存在し、柳川市民の生活に密着した、愛着ある水辺空間といえる。
沖端地区では2016年からの3年間で「沖端まちなみワークショップ」が15回開催されており、沖端地区の現状と課題について地元住民との協議が進められてきた。その中で、最初に行われたのが、具体的な「場づくり」に関するものであった。これを受け、夕涼みや町並み交流など、持ち運び可能な簡易ベンチ(縁台)を指す「バンコ(九州筑後地方の古くからの方言)」を実際に制作、設置するワークショップや社会実験が行われた。
そうした経緯を踏まえ、2019年から「沖端水天宮周辺地区デザイン検討会議(基本設計)」が、その後段階的に「沖端水天宮周辺地区設計ワーキンググループ(詳細設計)」が発足された。ここでは掘割の改修に合わせたデザイン提案として、道路と掘割空間の一体性を考慮しつつ「昔あったとされる汲水場の再生」や道路を一方通行化して歩道を広げ、掘割沿いに「利活用空間」を設ける用途変更等の提案がなされた。その他、掘割沿いの歩車道の舗装や照明計画等の細部にわたり、協議ならびに設計案の調整検討を進め、高尾忠志氏(地域力創造デザインセンター)や南雲勝志氏(ナグモデザイン)他の各専門家や学識経験者との連携により現在も整備が進められている。
当研究室は上記2016年「沖端まちなみワークショップ」から参画し、その後、2019年以降の基本設計の「検討会議」、詳細設計の「設計ワーキンググループ」においてもアドバイザーとして参画し、現在は施工現場におけるデザイン監理に従事している。本プロジェクトの完成は2026年度中の予定であり、これまで同様、最後まで精力的に取り組んでいく所存である。
