高生垣「ひゃーし」景観まちづくり(長崎県松浦市)
High Hedge “Hya-shi” in Matsuura City










松浦市には、市全域にわたりイヌマキやツバキ等で造られた高生垣が数多く分布しており、地元では「林叢(ひゃーし)」という呼称で親しまれている。このひゃーしにはいくつかの特徴的な形態が確認され、アーチ状の門が形づくられる等、松浦地域固有の景観要素となっている。2004年には、地域の景観を象徴する造形であることから御厨町西木場免にある「御厨の林叢群」が長崎県まちづくり景観資産に登録された。一方近年では、剪定されずに放置されているものや撤去されてしまうものが増え、ひゃーしは減少と荒廃の危機に瀕している。その背景には所有者の高齢化や後継者不足による維持管理の難しさが挙げられる。これを受け松浦市は2013年3月に松浦市景観基本計画を策定し、本計画において「ひゃーし景観まちづくり」を市全域に共通する先導的取り組みとして位置付けた。
2013~15年にかけて当研究室は、ひゃーしが持つ価値を明らかにするために、所有者や郷土史家などに対するヒアリング調査ならびに絵図や古写真に関する調査を実施している。2013年10月には「ひゃーし景観まちづくり協議会」が発足され、ひゃーしの価値の検証、共有等に関する協議がなされた。こうした活動により、ひゃーしが有する歴史的価値、機能・環境的価値、相対的価値が明らかとなった。地域景観資源としてのひゃーしには以下3つの特性が挙げられる。
・歴史的特性:石垣保全や造成当時の構成を維持している可能性も高く、当時の面影を思い起こさせる貴重な歴史的資源
・営為上の特性:藩政期より松浦の生活の中で連綿と継承されてきた資源であり、松浦市民の日常的営為そのものを反映したもの
・自然環境的特性:気温、湿度、気流、熱放射の4要素に関する改善効果が把握され特に防風効果が顕著である
ひゃーしは平戸藩の武家文化において形成され、現在もなお松浦市民の生活・活動と直接関わっていることから、文化的景観価値の高い資源といえる。一方、法的な地区指定を受けていない民有地の緑については、公的な援助等を受けるに値する歴史的背景や景観資源としての価値が明確でないため、緑を所有する個々人に管理責任が委ねられているのが現状である。ひゃーしについても同様で、所有者自らの管理意識の高さが窺える一方、地域全体としての共助支援は十分とは言い難い。このことからも、ひゃーしの保全には、個人の所有物であるという認識を松浦全体の共有資源であるという認識に昇華させることが重要といえる。
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